媛腸のサーカス 青葉市子 (Ichiko Aoba)

霊碑
何処へゆくの貴方は
わたしを措いて どこまで

埃臭いマグカップは
暖かな珈琲も要らないと言うように
静かにそこを動かない

空缶に刺さる煙草たちは随分干からびて
バスタブにはりついたまま
静かにそこを動かない

鋭敏だと言ったでしょ
勘繰りが酷いのです
やはり貴方もあの子も
人間らしいひとでしたか

喉の奥にはりついた冷たく苦い魂は
腹の底に沈んで行き
静かにそこを動かない

震える手脚 孤独に負けて
倒れた床は剣山のよう
凍える心臓 悪事に克てず
静かにそこを動きだす